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重松清『疾走』 [日常読んだ本]

疾走 上

疾走 上

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/05/25
  • メディア: 文庫


疾走 下

疾走 下

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/05/25
  • メディア: 文庫

 夏の100冊限定ブックカバーが欲しくて買った2冊。ただ、買って損はなかった。

 主人公は「沖」と呼ばれる干拓地と「浜」と呼ばれる旧来からの集落に分断される地域に住む「浜」の少年、シュウジ。その優秀で、母や地域の期待を一身に集める兄シュウイチが高校進学で挫折し、壊れていき、放火魔になってしまう。その結果、家族は崩壊し、シュウジは一人になる。そんなシュウジはクラスに転校してきて、また去っていった孤高の、強い「ひとり」の少女エリに憧れる一方で、誰かと、「浜」に住んでいた大人のアカネと、母と、聖書と、エリと、「つながる」ことをひたすら求めていく。

 「つながりたい」、それがこの話のメインテーマ。そのつながりは性的なものでもあるし、聖書に表されるような精神的なものでもある。これを読むと、どうしても同じ重松さんの『エイジ』との対称性に目がいく。『エイジ』ではエイジは自分を入院患者のようにベッドに縛り付けるものから「キレたい」と願い、『疾走』では家族が崩壊して本当に一人になってしまったシュウジがただひたすらに「つながりたい」と願う。

 特に印象的なのは、シュウジが東京に流れ着いて、バイトの場として多摩ニュータウンが選ばれる点。重松さんの小説は、14歳ぐらいの少年が主人公で、その年齢ならではの悩み、性的な描写、というような基本的な組み立てがあるものが多い。『エイジ』も『疾走』もこれには当てはまる。ただ、違いも当然多い。『疾走』の主人公シュウジはエイジと同じく弟だけれども、住んでいたのはニュータウンではなく地方で、新参者を蔑視するような「古い」田舎の街。放火魔を出したシュウジの家には嫌がらせが相次ぐ。その一方、『エイジ』で通り魔になったタカやんの家は、エイジとツカちゃんが見に行ったときも何ごともなかったかのようにそこにあり、しかも、犯行に使われた(と思われる)タカやんの自転車にはご丁寧にカバーまでかけられていた。

 「つながりたい」シュウジは多くにつながっていたからこそ、家族が崩壊し、街から出ざるを得なかった、「キレたい」エイジは本当には多くにはつながっていなかった、のかもしれないわけだ。シュウジが流れ着いた多摩ニュータウンの新聞販売所の所長はニュータウンに越して来る人たちを「借金背負ってまで我が家の欲しい皆さん」と表現し、シュウジはニュータウンの駅前で道行く人が皆「ひとり」に見え、自分はベンチに座っている少年というただの風景でしかないことに気づく。シュウジから見れば、どうしようもなく「ひとり」なエイジが「キレたい」。エイジは自らの暮らしがホームドラマみたいだと話しているけれども、シュウジにいわせれば、その生活のうすっぺらさを見事についた言い方ということになろう。(ただ、「ひとり」に見えるだけかも、とシュウジ自身が考えているように、彼らには家族という「強固な」「つながり」がある、あるいはあるとされているわけだが。)

 「つながり」で生活を破壊されたシュウジが「つながり」から「キレて」清々しました、という話だと2時間ドラマに出てくるただの「裏のある女」になってしまう。本当には、人はひとりで生きていきたくない、生きていけない、それがこの二つの小説のメッセージなのかもしれない。「好き」でできたつながりはいい、と最後に感じるエイジ。つながりは「好き」でなくても、あったほうがいい、いやとにかく「つながりたい」シュウジ。そのつながりの隙間から立ち上がる不安、考えさせられる。(そういえば、聖書について何にも言及してないけれども、普通に読めば聖書が一番のキー。「ことば」が大好きな私はちょっと聖書に魅かれました。うーん、でも微妙なテーマなので、語りません。)

 本の帯によると、『疾走』が映画化されるらしい。シュウジがNEWSの手越祐也、アカネが中谷美紀とのこと。手越君は確かにそれっぽいけど、中谷美紀がどうかなあと。というよりも、これをジャニーズ主演で映画化するっていうことに無理があるのでは。「つながりたい」の半分は性的に「つながりたい」なわけで、どう映像化するのか。そういう場面を減らしちゃったら『疾走』でなくなるし、そのまま行けば、手越君ファンの女の子は困るというか、怒るだろうし。そういう意味では、楽しみな映画化ではあるかも?


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コメント 1

ピカチュウ

かなり思いないようだけど、読み応えはあるね。
主人公の少年の心の葛藤に魅せられました。
映画版も予告編は良さそうでしたので、結構楽しみです。
by ピカチュウ (2005-10-21 16:22) 

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