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パオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』 [日常読んだ本]

つっこみ力 ちくま新書 645

つっこみ力 ちくま新書 645

  • 作者: パオロ・マッツァリーノ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02/06
  • メディア: 新書


 銀行員となってはや1か月.皆の“スキル・アップ”という私には理解し難い自己研鑽への情熱に距離を置きつつ,うまいことやっていく関係を模索している今日この頃ですが,一種の清涼剤として読書は必須なものになっております.

 さて,そんなことで手にした本がこの『つっこみ力』.イタリアン大学日本文化研究学科卒という,あからさまに怪しい著者は一体誰なのかというツッコミはおいておくにせよ(どこかの社会学者なんだろね),おっしゃることは至極真っ当.簡単にまとめれば,論理と批判を核にするメディアリテラシーは既に存在するものを正しさのもとでぶちこわすものでしかなくて,何も生まないし,実社会で役には立たない.一方,同じく正しさから出発する,笑いと愛と勇気を持ったつっこみ力は相手を盛り上げつつ社会におもしろさという付加価値を生みだしていけるというような議論がなされて,後半は自殺率と失業率の関係にツッコミを入れる実践編となっております.

 つっこみ力は重要,私は社会人1か月でほんとにそう痛感しましたね.もともと論理の世界で生きてきたから,議論がおかしな方向に行ったりとか,講師が頭悪いこと行ったりすると,普通に批判したくなっちゃうところだけど,それを今までの同質的な(基本的な立ち位置を共有した)環境ではない同期の方々に言っちゃうと非常にまずいことになる.だからといって,黙っているのもつらい!という私には“つっこみ力でおもしろく”という提案は結構胸に突き刺さりました.でも,つっこみ力さえも実社会では諸刃の剣なんだろうなと言う気もしたのも事実.企業社会の中で生きていくのに一番求められているのは,あくまで自分の前に提示された選択肢のなかでどれだけ熱く,素直にそのなかで頑張るか,結果を出せるかということなんだろうなというのが,この1か月で学んだことでした.選択肢に,その行いにツッコミを入れちゃうとそもそも仕事は成り立たなくなっちゃうわけで.つっこんではいけない,ある種の絶対不可侵領域(身近なところでいえば,“スキル・アップ”してどうすんの?とか.それでお客さまに最適な提案を行えるようにして満足したいとか,自分の市場価値を高めて,巨額の収入を得ることとか社会的名声を得ることをめざすっていうなら話はわからなくもないんだけど,周りを見渡すと,単純に“スキル・アップ”自体が目的化している人も多いんだよね.たぶん企業側としては,商品販売にあたって必要な資格を取ってもらうことのみを目的とするならば,余計な志はもってもらう必要もないし,おいそれと転職されても困るから,素直に“スキル・アップ”してもらった方が管理上好都合なんだろうし.ましてや,君は何のために働いているの?なんて,現代日本では絶対にしちゃいけないツッコミですな.いずれにしても,おもしろく処理できないし.)にツッコミをいれていいのは結局学者先生とか,高邁な政治家とかしかいないという実感があります.絶対不可侵領域ってのは社会のなかで常識のなかの常識とされているからこそ,絶対不可侵なわけです.そこにいくら笑いと愛と勇気を持ってつっこんでもおもしろさは生まれないで,当然を否定された人にすれば不快にしかうつらないようにも思える.だけど,そこにこそ,究極におかしな/おもしろいことは潜んでいて,ある人からはつっこみどころが満載だったりする.最終的には論理の力しかないような気もするけど,それじゃ人は動かない.どうしますか,学者先生の皆さん?

 そういえば,この『つっこみ力』っていうタイトル自体がたぶん著者の現代に対するツッコミになっていることは指摘しておいた方がいいかも.私は何でも“力(りょく)”をつければいいという安易な言葉遣いに,ら抜き言葉よりよっぽど違和感があるんだよね. “力”つけとけば,さっきの“スキル崇拝”もそうだけど,“スキル”と呼んでおけばそれっぽくなるから,ちゃんとした検討をしなくても立派な言葉,状態にみえる.言い得て妙といわれればそうなのかもしれないけど,一種の思考停止な気もする.で,この本のどこかで齋藤孝をちゃかしてるとこがあったんだけど,彼こそ“〜力”の総本山なわけで.シニカルに,“つっこみ力”って概念を提起してんのかな?とも思った私でした.


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