ペトロニウス『サテュリコン』 [日常読んだ本]
巻末の解題によれば、暴君として知られるローマ帝国の皇帝ネロを楽しませるために、ペトロニウスによって書かれた悪漢小説とのことである。この小説が書かれた背景とその内容の関係や、話中に登場するトリマルキオンの饗宴に見られる古代ローマ人の暮らしを伝えているということにおいて、読むべきもの、といったところか。感想としては、確かに古代ローマ人がどのような暮らしをしていたのかをうかがい知るという点では興味深い。ただ、物語の流れはへんてこな官能小説、しかも要所要所でその文が伝えられていないという有様で、小説としてはそれほど面白くない。
あらすじを簡単に紹介すると、2人の青年が美しい少年奴隷をめぐって争いながら、南イタリアを盗みや詐欺などを重ねながら放浪し、そこにさまざまな好色の男女が関わってくる、というもの。かなりの部分が失われてしまっているため、話の全体像がつかめないが、男三人の三角関係、成金解放奴隷の贅沢三昧、上流婦人の男遊び、遺産の継承をめぐった詐欺など、一つ一つのトピックを適切にあらわすのは、表紙に書かれた「悪の華」という表現だろう。
性的な描写もかなり露骨で、しかも、描写が芸術的かと問われれば、ただの娯楽だろうなといった展開なので、歴史的な価値があるという一点で岩波文庫たりえているともいえそう。中学校の図書館に、岩波文庫の一冊として並べるならば、相当に勇気のある先生かな、と思う。中学校といえば「3年B組金八先生」。上戸彩のシリーズでは、そういえばセクシャル・マイノリティを主題にしていたような。授業であれこれ言う前に、こういう古代ギリシア・ローマの小説を読ませるってのもいいのかも。少なくとも、性っていうのは固定的な概念ではないことを思い知る。と、一応社会学を学ぶものとして、こんなことも考えてみるのでした。
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