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盛山和夫『年金問題の正しい考え方」 [日常読んだ本]

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)

  • 作者: 盛山 和夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 新書


 この本では,基本的には,2004年の法改正によって導入された「マクロ経済スライド調整率」を徹底的に活用することで,当時政府与党が胸を張った「100年安心」とまではいかなくとも,「30年安心」の制度となっており,経済情勢や人口動向を見ながら2030年代になって議論すればよいのだ,という考え方が提示される.

 しかし,これが正しい考え方,ということを筆者は述べたいのではない,たぶん.年金問題の考え方の考え方こそが,筆者が光をあてたかった部分なのではないだろうか.プロローグで筆者は,未納問題や一部が優遇される議員年金などの問題への過度な批判,年金の財源を消費税化することで全てがバラ色とする見方などのマスコミや政治家の年金問題の考え方に疑問を投げかけ,問題ごとの考え方が,数式を用いながらきわめて理路整然と示されていく.

 したがって,広く世間で年金問題だと考えられていることがらは年金問題ではない,ということになり,当然,未納の人叩きや優遇されている議員叩きといった一般の人達が好みそうな話題は出てこない.その意味では,非常につまらない本,ということになる.今ホットな話題でいえば,かなりの人数の年金保険料納付記録が失われていたことに関しては実際に支払いに大きな支障をきたす問題であって,批判,検討がなされるべきであろうが,40兆円規模の年金財政からみれば微々たる金額である横領問題を年金問題の中核に据えることは大きな間違いであるわけだ(もちろん,中核に据えるべきではないだけであって,許されないことであることはいうまでもないが).この種の論点のすり替えを見抜け!という意味で,筆者は「正しい考え方」という語を用いたのだと思われる.

 ということで,この本は年金問題の本質に関心がある人におすすめであるわけだけれども,それ以上に大学1年生におすすめしたい本でもある.問いを提示して,それについての論点をひとつひとつ検討して,結論に至るその筋書きは,大学生が初めてレポートや論文を書く際の見本となるし,その言葉遣いも新書ということもあって平易ながら,アカデミックな香りがただよっている.

 個人的な感想としては,格差問題の火付け役の一人である橘木俊詔の年金改革案への批判が興味深かった.階層こそ盛山先生本来の専門分野であり,ぜひとも格差問題についての新書で大いに橘木や山田昌弘の論について検討を加えていただけたらと思う.


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